2017/5/31

ショーペンハウアーは自殺には二種類あるという。一つは欲望に従った自殺で、もう一つは欲望がすべて消えた結果としての自殺である。前者は例えば苦しい状況から逃れるための自殺で、後者は例えば即身成仏がそれに当たる。ショーペンハウアーは欲望は無限に尽きず欲望がある限り人は不満足という苦しみに襲われ続けるから、欲望を捨て去らなければならないと説いている。前者の自殺は単に欲望に従い欲望を肯定したものだから良くない自殺で、後者は欲望を否定する良い自殺なのだ。この欲望、彼の用語で言えば「意志」は個々人の欲求ではなく世界全体のダイナミズムを表現したものだから、欲望の否定の究極としての自殺は自己の終わりであると同時に世界の終わりでもある。しかし即身成仏した結果世界が消え去るというのはあまり直感的な結論とは言い難い。どちらにせよ自殺をすれば(自殺でなくとも死ねば)「私の見ている」世界は消えるだろう。この私が見ている世界(彼の用語では現象界)を超越した、つまり「意志」としての世界を想定できるのかどうかという点はやや疑わしい。ショーペンハウアー自身のこの点の記述も論証というより直感に訴えるもので成功しているかどうかは議論が分かれている。