2017/8/15

図書館で見つけた『量子革命』という本を読んでいる。物理学の理論の話が平易に記述されていて読みやすく、また綺羅星の如き物理学者たちの人間関係が生き生きと描かれているので読んでいて楽しい大変良い本だと思う。出てくる人物がぽこじゃかノーベル賞を取るのでノーベル賞のバーゲンセール状態である。さて、読んでいて興味深かったのがハイゼンベルク不確定性原理を見つけた際に念頭に置いていたのが(アインシュタインから伝え聞いていた)哲学者コントの思想であった点だった。それは観察結果は観察者が依拠している理論に依存するという思想である。その後ボーアは量子の波と粒子の二重性は観察実験がどちらの性質を対象としているかによってそれに対応した性質が現れてくると主張する。はじめ私はこの量子の二重性を世界の実在に関わるような問題だと考えていたが、むしろ問題の本質は観察の方にあることがわかった。つまり問題としては現代の分析哲学で取りざたされる「観察の理論負荷性」と言ったものと同種のものなのである。それは結局純粋に客観的な観察(経験)などは存在せず、あくまで現象は私たちがそれを見ているという限りでの現象なのだということだ。量子などのミクロの世界ではただ「見る」ということにも困難が生じる。なぜなら微小な粒子に光をあてると光の粒子との衝突によってその粒子の運動量が変わってしまうからだ。量子力学はこのような私たちの経験の可能性の制約の地平に突き当たったのだと考えることができる。そしてその制約の外にある「物自体」について私たちは波とも粒子とも判断することはできない。